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判決紹介(交通事故)(後遺障害等級の認定が認められない場合の慰謝料での調整)その1

長いので何回かに分けて紹介します。まずは、判決の内容。

 

東京地裁平成29年12月22日判決(平成28年(ワ)第29729号、自保ジャーナル2019⑦)

 

1 テーマ 後遺障害等級の認定が認められない場合の慰謝料での調整

 

2 事故の概要

(1)原告車 普通自動二輪車

(2)被告車 普通乗用自動車

(3)事故日 平成25年11月14日

(4)事故態様 反訴被告運転の普通乗用自動車が、交通整理の行われていない丁字路交差点を直進進行しようとして、突き当り路から上記交差点を右折進行してきた反訴原告運転の普通自動二輪車の後部に上記乗用自動車の前部を衝突させ、反訴原告を上記二輪車から転倒させた。

 

3 主な争点の判断

(1)反訴原告の後遺障害の内容及び程度、症状固定時期

  ア 右肩関節について(肩峰下インビンジメント症候群やバンカート損傷の有無)

    本件事故から約2年後に初めて右肩のMRI検査を受けており、その結果を踏まえて、医師はインビンジメント症候群及びバンカート

   損傷について、その「疑い」を指摘するにとどめていること、また別の医師は、肩峰下インビンジメント症候群合併したと判断した

   ものの、それはあくまで、腱板損傷が本件事故によるか否かは反訴原告の申告のみに依拠する旨を述べているところ、反訴原告の棘

   (きょく)上筋損傷が本件事故により生じたかは確認されていない。反訴原告は本件事故後も右肩を反復して脱臼していたから、上

   記損傷が本件事故後に発生した可能性もある。さらに、本件事故前から肩関節の脱臼歴があったことがうかがわれることからする

   と、上記損傷が平成22年9月4日から本件事故発生日までの間に発生した可能性もある。

    以上より、反訴原告が、本件事故により、反訴原告の右肩関節に、その可動域制限を生じさせるような、肩峰下インビンジメント

   症候群やバンカート損傷等の傷害を負ったとは認められない。

  イ 肩関節の可動域制限について

    肩関節の可動域については、肩甲上腕関節(いわゆる肩関節)だけでなく、胸鎖関節等の動きが関係していることから、本件事故

   前に肩鎖関節に起因する肩関節の可動域制限の後遺障害があれば、その障害が該当する等級よりも現存する障害の該当する等級が重

   くならなければ、自賠責保険における後遺障害として評価することはできないところ、反訴原告は、前件事故により、右肩関節の機

   能障害について、その可動域が健側(けんそく)(左肩関節)の可動域角度の4分の3以下に制限されているとして、別表第二第12

   級6号の認定がされていた。

    しかしながら、医師において、反訴原告に再脱臼の恐怖感があることを認識しながらなお、真に他動の可動域を計測したかは疑問

   がある。

    そうすると、反訴原告が、本件事故により、右肩関節の可動域制限を残すような傷害を負ったと認められるとしても、本件後遺障

   害診断書の記載によっては、右肩関節の外転の他動の可動域について、健側(けんそく)である左肩の可動域について、健側である左

   肩の可動域180度の2分の1である90度以下に制限されていたとは認められず、他に、原告の右肩関節の可動域について、別表第

   二12級6号を超える制限が残ったと認めるに足りる証拠はない。

 

  イ 腰部神経症状について

         本件事故以前から、藩祖原告の腰部には、別表第二14級9号に該当する神経症状が残存していたと認められる。したがって、本件事故により負った腰椎捻挫により生じた症状は、別表第二第14級9号より重い等級とならなければ、自賠責保険における後遺障害として評価することはできない。

    反訴原告は、H大学の相撲部員であった平成9年頃から既に腰椎椎間板ヘルニアと診断され、腰部用のコルセットの使用を継続していたところ、平成23年6月にも改めてコルセットを作成してもらうに当たり腰椎椎間板ヘルニアと再度診断されていた上、平成25年月4日から同年10月1日まで、腰痛・左坐骨神経痛(左下肢神経痛)を訴えてFクリニックを受診していたのであって、これらの腰椎椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症等が本件事故により発症したとは認められない。

    したがって、反訴原告の腰部から左下肢にかけての症状については、自賠責認定どおり、他覚的に神経系統の障害が証明されたとはいえず、別表第二第14級9号を超える後遺障害が残存したとは認められない。

 

 (2)慰謝料

    反訴原告の腰部神経症状について、他覚的所見が認められないため別表第二第14級9号を超える後遺障害等級認定をすることが

   できないとしても、本件事故前からの腰椎椎間板ヘルニアや腰部脊椎管狭窄症に加え、本件事故による影響もあり、反訴原告の腰部

   神経症状が前記認定事実のような経過をたどったと認められることは、慰謝料算定の一要素として併せ考慮するのが相当であり、本

   件事故と相当因果関係のある慰謝料を220万円と認める。