画像診断の見落しの有無が問題となる事例では、場合を分けて検討する必要がある。すなわち、画像から癌などが発見できるのに発見しなかった場合(純粋な見落とし)と、腫瘍などはきちんと発見できているのにその評価を間違った場合(評価の間違い)である。そして両者ともその見落とし及び評価の間違いに過失があるか、言い方を変えればその見落としや間違いが無理もなかったと言えるのかどうかが問題となる。
この判決は後者の例である。事後的には腫瘍は悪性であったが、評価の誤りには過失がないとされた。なぜ評価を誤り結果的に患者は死亡したにもかかわらず過失が存在しないという判断になったのか。
まず、第1に、鑑定人の意見も踏まえ、画像自体からは悪性と判断できないとされた。
第2に、術前の穿刺吸引細胞診の結果、「多形性腺腫の存在を考えたい所見」とされ悪性の確率が低いと判断されていたこと、悪性腫瘍の場合に、顔面神経麻痺を伴うことが多いと指摘されているところ、原告には顔面神経麻痺が見られなかったこと、疼痛の内容が悪性腫瘍で認められるものと異なっていたこと、腫瘍の増大傾向も悪性腫瘍に見られるものと違っていたことが認定された。
そして、結果的には悪性腫瘍であっても、被告病院の担当医師らには、原告の腫瘍が悪性であることを予見し、悪性腫瘍全摘術を行うべき注意義務があったとは認められない、とされたのである。つまり悪性腫瘍に特有の症状がないので気づかなくてもやむを得ないとされたのである。
この判例から学べる点は、画像の見落しの場合、例えば癌の場合、癌を見落としたかどうかという点だけに注意がいき、依頼者もその点だけで病院を批判しがちであるが、実際には画像以外のその病気特有の症状の有無からも、病院が癌であると認識できたかどうかが問題になる場合もあるということである。画像とそれ以外の点の合わせ技になることもあるということである。
逆に明確に癌であると分からない画像であっても、患者に病気特有の症状が出ていれば、それを踏まえて、画像から癌で判断すべきであったという評価になる可能性もあると考える。