前回の続きです。
まず事実経過として、患者の未破裂脳動脈瘤については、治療を受けずに保存的に経過をみること、開頭手術による治療を受けること、コイル塞栓術による治療を受けることの3つの選択肢が存在していたこと(どれを選ぶかは患者次第と病院側は説明しました)、患者は一旦開頭手術を選択したが、手術予定の2日前に患者の動脈瘤が開頭手術をするのが困難な場所にあることが分かり、コイル塞栓術を勧められて患者もそれに応じたという特殊事情がありました。
この経過を踏まえて、高裁判決では、「控訴人病院の担当医師らは,Aに対し,動脈瘤の危険性,Aが採り得る選択肢の内容,それぞれの選択肢の利点と危険性,危険性については起こりうる主な合併症の内容及び発生頻度並びに合併症による死亡の可能性を説明したということができ,説明義務違反は認められない」としました。
これに対して最高裁判決では、
「記録によれば,本件病院の担当医師らは,開頭手術では,治療中に神経等を損傷する可能性があるが,治療中に動脈りゅうが破裂した場合にはコイルそく栓術の場合よりも対処がしやすいのに対して,コイルそく栓術では,身体に加わる侵襲が少なく,開頭手術のように治療中に神経等を損傷する可能性も少ないが,動脈のそく栓が生じて脳こうそくを発生させる場合があるほか,動脈りゅうが破裂した場合には救命が困難であるという問題もあり,このような場合にはいずれにせよ開頭手術が必要になるという知見を有していたことがうかがわれ,また, そのような知見は,開頭手術やコイルそく栓術を実施していた本件病院の担当医師らが当然に有すべき知見であったというべきであるから,同医師らは,太郎に対して ,少なくとも上記各知見について分かりやすく説明する義務があったというべきである」
「また,前記事実関係によれば,太郎が平成8年2月23日に開頭手術を選択した後の同月 27日の手術前のカンファレンスにおいて,内けい動脈そのものが立ち上がっており,動脈りゅう体部が脳の中に埋没するように存在しているため,恐らく動脈りゅう体部の背部は確認できないので,貫通動脈や前脈絡叢動脈をクリップにより閉そくしてしまう可能性があり,開頭手術はかなり困難であることが新たに判明したというのであるから,本件病院の担当医師らは,太郎がこの点をも踏まえて開頭手術の危険性とコイルそく栓術の危険性を比較検討 できるように,太郎に対して,上記のとおりカンファレンスで判明した開頭手術に伴う問題点について具体的に説明する義務があったというべきである」としました。
長くなったので次回解説します。