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判例紹介(交通事故)(後遺障害等級の認定が認められない場合の慰謝料での調整)その3

前回の続きです。

 

後遺障害等級とは別に慰謝料で調整されることが多い類型がありますので、知っておくと便利だと思います。交通事故に遭って下記のような障害を負った場合には、等級とは別に慰謝料もっと取れないか考えてみる価値がある類型だということです。

 

慰謝料で斟酌した事案(『損害賠償額算定基準上巻』いわゆる赤本での整理)(2018年版195頁以下)

(1)自賠責14級に至らない後遺症があった場合等

   外貌醜状の例多数。

   頚椎捻挫の例も。

   「14級に至らない頚部痛、跛行、左股関節痛等の運送業務勤務(男・年齢不明)につき、労働能力喪失まで認めるに足りる証拠はないとしたが、これが日常生活や社会復帰を躊躇させ、将来への不安を抱かせる要因ともなっている点を斟酌し、他方で既往歴(左変形股関節症)が影響していることも考慮して100万円を認めた」(東京地判平成12年1月19日)

   「頚部痛、頭痛、腰痛、右第4及び第5指の痺れの症状(等級非該当)の契約社員・運転手(男・年齢不明)につき、症状が相当期間継続することが予想され、頑固な神経症状を残すとして、傷害分156万円、後遺障害分100万円を認めた」(さいたま地判平成18年10月10日)

 

(2)より上級の等級に至らない場合

   外貌醜状の例(4例中3例)

   「醜状痕の高校3年生(女)につき、労働能力の喪失に着目した自賠法施行令別表を機械的にあてはめるのではなく、被害者の受けた客観的な精神的苦痛を具体的に判断するべきとして400万円を認めた(神戸地判平成7年11月8日)

 

(3)既存障害のある被害者の事例

   多様な類型

   「左膝疼痛(12級12号)の主婦(固定時68歳)につき、事故の2年4ヶ月前の左膝関節置換術にて8級7号の既往症を有していたものの、事故当時、同手術によって膝の疼痛の苦しみから解放されていたにも関わらず、再び左膝関節の疼痛に苦しめられるようになったこと等を考慮して、傷害分200万円、後遺障害分300万円を認めた(京都地判平成14年12月12日)

 

(4)逸失利益の算定が困難または不可能な場合

  ア 外貌醜状等

  イ 歯牙障害

  ウ 嗅覚障害

  エ 骨盤骨変形

  オ その他

 

(5)将来の手術費の算定が困難または不可能な場合

   「右股関節脱臼骨折による右下肢短縮、股関節機能障害等(8級)の水道工事現場監督(男・固定時34歳)につき、将来股関節の人工関節置換手術が必要であるが、時期・費用が不明で、手術により失われる労働能力の程度も判然としないため損害額を算定することが不可能なので慰謝料で考慮するとし、本来の後遺障害分700万円のほかに800万円の慰謝料を認めた(神戸地裁平成10年9月24日)