医療過誤については、
弁護士になって最初から医療過誤弁護団に入り(最初は愛知で、今は福岡で)
過去の判例研究、医療に関する書籍・論文(日本語、英語)の読破、医師の講演への参加等、日々研鑽に努めています。
・手術の結果、医療ミスと思われる結果が生じた。
・医師の説明に納得がいかない。
・病院が提示してきた賠償額が妥当かどうか判断できない。
・注射による神経損傷
・多汗症治療による後遺症
・腹腔鏡下手術による後遺症
・ギランバレー症候群
・誤嚥性肺炎
・大腿骨頭壊死
・医療過誤によって働けなくなった場合の逸失利益の請求。
・医療過誤によって後遺症が発生した場合の慰謝料請求。
・病院との交渉、和解、訴訟の提起
医療問題研究会福岡弁護団に所属し、日々医療過誤事件について研鑽に努めています。
通常の着手金・報酬方式か、ほぼ成功報酬のみの方式か、自由にお選びください。
通常の着手金・報酬方式は、一般的な金銭請求事件の基準によります。
ほぼ成功報酬のみの方式は、着手金が支払えない依頼者用です。
交渉段階で20万円、裁判段階では一審ごとに20万円いただきますが、
最終的には、相手方から得た金銭の3割を報酬としていただきます(報酬が40万円以上の場合には、着手金分は差し引きます)。
例えば、地裁で300万円取得した場合には、90万円が報酬となりますが、既に着手金として40万円いただいているので、それを差し引いて報酬は50万円となります。
つまり、ある程度の額が取得できれば実質着手金がゼロになるということです。
最高裁判決は、高裁判決より2点説明義務が追加され、その2点が説明されていないので説明義務違反がある可能性があるとして、高裁に差し戻しました。
①で書いたように規範は同じです。2つ以上の選択肢がある場合には、「それぞれの療法(術式)の違いや利害得失を分かりやすく説明することが求められる」
そして高裁はそれを分かりやすく説明したと判断しました。
ここからは私の意見も入ります。最高裁は、まず、一般的な医学的知識の他に、「このような場合にはいずれにせよ開頭手術が必要になるという知見を有していたことがうかがわれ,また, そのような知見は,開頭手術やコイルそく栓術を実施していた本件病院の担当医師らが当然に有すべき知見であったというべきであるから,同医師らは,太郎に対して ,少なくとも上記各知見について分かりやすく説明する義務があったというべきである」と述べて、特に知っていたこと、当然知っているべきことについても説明義務があると最高裁は考えたと思います。つまり常識的なこと以外にその医師が知っていた知識や知っているべき知識も惜しまず説明する必要がある。
そして2点目として、一般的な知識だけではなく、「上記のとおりカンファレンスで判明した開頭手術に伴う問題点について具体的に説明する義務があったというべきである」として、患者を検査する過程で知ったことも説明する義務があるとしたのです。
まとめると、高裁はその病気や治療についての一般的な知識について分かりやすく説明すれば足りるとしたのに対して、最高裁は、それプラス、担当した医師や病院が特に知っていたまたは知っているべき一般的知識と、その患者さんの検査などで知った個別の知識についても説明義務があると判断したというのが私の解釈です。
病院としては説明は十分にしたと主張すると思いますが、上記のようなことまで含めて説明ががあったかどうか慎重に検討する必要があると思います。
前回の続きです。
まず事実経過として、患者の未破裂脳動脈瘤については、治療を受けずに保存的に経過をみること、開頭手術による治療を受けること、コイル塞栓術による治療を受けることの3つの選択肢が存在していたこと(どれを選ぶかは患者次第と病院側は説明しました)、患者は一旦開頭手術を選択したが、手術予定の2日前に患者の動脈瘤が開頭手術をするのが困難な場所にあることが分かり、コイル塞栓術を勧められて患者もそれに応じたという特殊事情がありました。
この経過を踏まえて、高裁判決では、「控訴人病院の担当医師らは,Aに対し,動脈瘤の危険性,Aが採り得る選択肢の内容,それぞれの選択肢の利点と危険性,危険性については起こりうる主な合併症の内容及び発生頻度並びに合併症による死亡の可能性を説明したということができ,説明義務違反は認められない」としました。
これに対して最高裁判決では、
「記録によれば,本件病院の担当医師らは,開頭手術では,治療中に神経等を損傷する可能性があるが,治療中に動脈りゅうが破裂した場合にはコイルそく栓術の場合よりも対処がしやすいのに対して,コイルそく栓術では,身体に加わる侵襲が少なく,開頭手術のように治療中に神経等を損傷する可能性も少ないが,動脈のそく栓が生じて脳こうそくを発生させる場合があるほか,動脈りゅうが破裂した場合には救命が困難であるという問題もあり,このような場合にはいずれにせよ開頭手術が必要になるという知見を有していたことがうかがわれ,また, そのような知見は,開頭手術やコイルそく栓術を実施していた本件病院の担当医師らが当然に有すべき知見であったというべきであるから,同医師らは,太郎に対して ,少なくとも上記各知見について分かりやすく説明する義務があったというべきである」
「また,前記事実関係によれば,太郎が平成8年2月23日に開頭手術を選択した後の同月 27日の手術前のカンファレンスにおいて,内けい動脈そのものが立ち上がっており,動脈りゅう体部が脳の中に埋没するように存在しているため,恐らく動脈りゅう体部の背部は確認できないので,貫通動脈や前脈絡叢動脈をクリップにより閉そくしてしまう可能性があり,開頭手術はかなり困難であることが新たに判明したというのであるから,本件病院の担当医師らは,太郎がこの点をも踏まえて開頭手術の危険性とコイルそく栓術の危険性を比較検討 できるように,太郎に対して,上記のとおりカンファレンスで判明した開頭手術に伴う問題点について具体的に説明する義務があったというべきである」としました。
長くなったので次回解説します。
医療過誤事件でよく問題となる論点として、前回まで判例を紹介した画像の見落としの他に、説明義務違反があります。歯科や美容整形も含めあらゆる分野の医療で問題となる論点で、依頼者としても、手術のミスよりも説明がなかったというほうが分かりやすいので相談者のほとんどが主張されます。
裁判でもよく争点になる論点ですが、最近検討した最高裁判決を紹介したいと思います。半年に一度裁判所で、医療側弁護士、患者側弁護士、裁判官が集まって一つの判決を議論するのですが、最近そこで取り上げられた判決です。
最高裁平成18年10月27日判決です。事案は、未破裂脳動脈瘤の存在が確認された患者がコイルそく栓術を受けたところ、術中にコイルがりゅう外に逸脱するなどして脳こうそくが生じ死亡した事案において判示の事情の下においては、開頭手術とコイルそく栓術のいずれかを選択するか等について患者に対して充分な説明を行ったか否かについて明らかでなく、担当医師に説明義務違反がないとはいえないとされた事案です。
実はこの判決の前に平成10年と平成13年に説明義務について判断した最高裁判決があり、どういう説明をするかという一般論は既に確立していて、高裁も最高裁もその一般論に基づいて判断したのですが、高裁はその一般論通り十分説明したと判断したのに対して、最高裁は不十分という判断をして食い違いました。
その一般論は以下の通りです。
「医師は,患者の疾患の治療のために手術を実施するに当たっては,診療契約に基づき,特別の事情のない限り,患者に対し,当該疾患の診断(病名と病状),実施予定の手術の内容,手術に付随する危険性,他に選択可能な治療方法があれば,その内容と利害得失,予後などについて説明すべき義務があり,また,医療水準として確立した療法(術式)が複数存在する場合には,患者がそのいずれを選択するかにつき熟慮の上判断することができるような仕方で,それぞれの療法(術式)の違いや利害得失を分かりやすく説明することが求められると解される(最高裁平成10年(オ)第576号同13年11月27日第三小法廷判決・民集55巻6号1154頁参照)」
分かりやすく説明することが求められるとされている点が注目すべき点です。ただ、もちろん分かりやすいかどうかは、人によって評価が異なるので、裁判官の間でも評価が分かれました。
次回、高裁と最高裁の判断内容を説明します。
CT画像の見落としについては否定されましたので、次にMRI画像の見落としについて問題となりました。CT画像の見落としが否定されたので、MRI画像の見落としも否定されたのかと思われるかもしれませんが、こちらは見落としが肯定されました。しかも、元々癌があると思われていたところと違う箇所に癌が存在していたのですが、見つけられなかったことに過失が認められました。
まず、MRIとCTでどうして結論が違うことになったのかについては以下のように述べました。
肝内胆管癌のMRI検査がCT検査より有用であることを確認した上で、肝内胆管癌のMRI画像所見に関する医学的知見と、本件MRI検査画像上に認められる所見は矛盾しないこと(肝内胆管癌がMRI画像でどのように映るかという特徴と、実際の画像の特徴が一致していたこと。つまりどのような画像になるかの知識があれば見つけやすい画像だったということです)を認定しました。
簡単にいうとMRIのほうが見つけやすい癌だったことと、癌があればMRIにはこう映るという典型的な写り方をしていたのに気づかなかったことから過失が認められました。
もう一つの論点の、撮影目的となる部位とは別の部位に疾患の存在を示す所見がある場合の過失の有無についても以下のように述べて過失を認めました。
「CT検査報告書の検査目的欄及びMRI検査報告書の臨床診断欄のいずれにも記入されていたC型肝炎は、肝の原発性悪性腫瘍の95%を占める肝細胞癌の大きな病因であること、肝細胞癌の特徴的な性格として、門脈や肝静脈内に好んで進展し、経門脈性肝内移転を起こしやすいこと、肝硬変では多中心性に発癌する可能性があることをも併せ考えると 本件超音波検査で約10mmの腫瘤が認められた部位(S5又はS8)以外の分にも癌が存在する可能性があるといえる。
そうであるとすれば、本件で、CT検査報告書の臨床診断欄に、本件超音波検査で見られた肝臓のS5又はS8の部位にある10mm大の低エコー腫瘤の所見が記載され、特にこれらの箇所についての注意喚起がされていたとしても 本件腫瘤の存在したS1区域を含む肝臓のその他の区域についても C医師は慎重に読影すべきであったというべきである」
ちょっと難しいですが、簡単にいうと、肝臓の癌であればよく見つかる箇所があって、肝臓癌の可能性があることはわかっていたのだから、そこの部分もちゃんと見るべきだったという判断です。元々の検査で癌があるかもと疑われていたのは別の箇所だったので、医師はその部分だけを見て癌は存在しないと判断してしまったのです。病院側は毎日たくさん画像見なければいけないから1枚ずつそんなに丁寧には見ることができないとは言ったのですが、通りませんでした。確かに忙しいからちゃんとできなくてもしょうがないとは言えないですよね。
日々、患者側に立った仕事しておきながらなんですが、お医者さんも大変です。
前回に引き続いて、画像診断の見落としが問題となった事例を紹介します。
事案は以下の通りです。 この事件も論点は多数ありますが、画像を読影した医師の見落としだけに絞って解説します。
本件では、B(以下「B」という。)が,平成13年12月4日,被告Y2医師(以下 「被告Y2医師」という。)が開設するaクリニック(以下「aクリニック」という。)に おいて超音波検査(以下「本件超音波検査」という。)を受けた後,平成14年2月25日 ,被告医療法人社団Y1会(以下「被告Y1会」という。)が開設するb病院(以下「b病 院」という。)において,CT検査(以下「本件CT検査」という。)及びMRI検査(以 下「本件MRI検査」という。)を受け,同年7月18日,肝内胆管癌(以下「胆管細胞癌 」ともいう。)により死亡したことについて,原告らが,被告Y1会には,b病院にお いて本件CT検査及び本件MRI検査の画像の読影を担当したC医師(以下「C医師」とい う。)には,本件CT検査及び本件MRI検査の画像に見られる異常所見を適切に読影する注意義務を怠った過失があると主張した事案です。
まず、CTについては、裁判に5人の医師の鑑定や意見書が出され、そのうち4人の医師が腫瘤の認定は困難という判断をしていることから、「本件CT検査画像において本件腫瘤を指摘することが容易であったとはいえず、C医師に本件CT検査画像の読影に関する過失があったとは認められない」としました。